ウヨキョクセツ(仮)

躁鬱病改め、統合失調症らしい。闇をぶちまけたり、ぶちまけなかったり。

脳内彼女

俺は薄暗い体育館のような広間に座っていた。自分の身体の小ささから見ると、一人称は僕、のほうが合っているのかもしれなかった。目の前には厚化粧をした先生が怒鳴り声を上げている。俺は罪悪感から嗚咽を漏らして泣いていた。

確かに、幼稚園の頃は活発で、人の言うことを聞かなかった。だから、先生からストレスのはけ口にされることも理解できた。そのせいで内向的になったとしても、別に今になって咎めに行くほど、恨んではいない。

毎日のように怒られながらも、家では愛を受けていたと思う。家族3人で談笑しながら晩飯を共にした映像が浮かんでくる。どこかに旅行に行った経験も、何度もあった筈だ。

つまり、全く愛を知らない人間では無かったということだ。しかし、愛の味を知っているからこそ、失った時には口が淋しくなるものだ。

小学校に上がると、俺は人との関わりを避けた。というよりも、近づかせないように刃物を振り回していた。人は、傷つかないように俺を避けた。家では、精神病になった母親が、ヒステリックに俺に怒鳴った。泣き寝入りする俺を、別人格の母親が、抱きしめた。愛と呼ぶには恣意的な、重さが絡みつくものだった。

俺は、倒錯した人間だと分かっていたから、日に日に自分が嫌いになった。自分の顔が憎かった。笑顔が、醜かった。だから、笑わないように努めた。人を好きになってはいけないと思った。毎日が白昼夢のように浮き足立ち、膜に包まれているような感じがした。生きているのか、死んでいるのかも、分からなかった。

ある日、俺は死ぬと言い、車道へと駆けた。その時は親に止められてしまった。もう、どちらでもよかった。いずれにしろ、俺は近い将来に自殺をするのだと思った。だから、中学に上がっても、彼女は作らないと決めていた。好きな人の制服姿を見て、満足していた。それだけで良いのだと俺は思った。

高校は、クラスに女子が1人の、殆ど男子校のような学校だった。俺には別に友達がいたから、何も気にならなかった。ただ、忘れていた愛の味を確かめたいと思った。そこで、ゲームのキャラクターを丸めた布団に投影し、脳内で会話することにした。元々想像力が逞しかったのか、みるみるうちに現実味を帯び始めた。彼女は呼吸をし、考え、俺の相談に乗り、違った角度からの意見を述べた。やがて、俺の生活に欠かせない存在になった頃、彼女は現実にも姿を現し始めた。光源のグラデーションとベタ塗りの絵は、当然のように調和を保っていた。彼女はさも当然の如く歩き回り、電車の中でも気にせず話しかけてくる。しかし、これでは学業が手に付かないので、彼女との逢瀬は就寝前だけと決め事をし、紋切り型の青春の如き日々を過ごした。

俺の生活は、順当に育ってきた人が社会生活を営むように、安定していた。ただ、違いがあるとすれば、人々は死というものをここまで身近に感じてはおらず、まさか自分に死が訪れる訳がないと、どこかで思っているのである。そして、自らの予想通りに、俺は自殺を決行した。しかし、いくつかの失敗する因子が重なり、生かされる形となった。驚いたのは、全身が痺れ、死が目の前まで近づいた時、彼女の顔も思い出せなかったことだ。俺は、どこかで小さく、生きたいと思ってしまった。自殺をする前に、彼女が止めてくれた訳でもなかった。むしろ、同じ脳内なのだから、心中するという心算で決行した筈だった。

俺の人生は、この自殺に向かって歩んできたものだった。しかし、失敗した今、思考を全て移行させなくてはならない。だが、脳内彼女は当分消すことはない。自らが愛されるべき人間かも分からないのに、他人に思考を委ねるのは、自分にとっては、恐ろしいことだからだ。